金融が乗っ取る世界経済 ロナルド・ドーア2012/01/21 16:26

金融が乗っ取る世界経済 ロナルド・ドーア 中公新書 840円
1 金融化を表す現象
①先進工業国の総所得において、金融業者の取り分が増大。
・米国は41%。手数料、取引・資産管理・ヘッジ等コストは、実体経済の人たちが負担。
②金融派生商品等によって、金融業者の仲介活動が複雑投機的になり資本市場の規模が拡大。
・派生契約残高が世界全体の総生産の約8倍、 為替取引出来高は、国際貿易総額の100倍以上、証券化とリスク管理技術(CDO証券等)、信用リスク保険(CDS)の市場崩壊で毒物化。
③実態経済の付加価値の配分が、財産権を最重視する結果、企業経営者の社会的責任が「株主」のみに絞られ、法的制度や経営者の意識・目標が変化。
・経営者資本主義から投資家資本主義への移行、大企業の実質的支配は経営者から所有者へ、ステークホルダー説に対する株主価値説の優勢。
・機関投資家が物言う株主に、ヘッジファンド等が短期的利回りの最大化を目標、MOB等で付加価値総体の上昇ではなく既存付加価値の再分配を狙う。
④政府が国民に証券文化を奨励
・年金基金の資産運用に関する規制の緩和、廃止、確定給付型年金から確定拠出型年金への移行促進、ベンチャー企業奨励の税制措置。
2 金融化の結果としての社会現象
①所得や富の格差拡大
・国家間競争論や、労働インセンティブ論、国家悪玉論、小政府論等の混合物である新自由主義が勃興した結果、所得税の累進制が緩和
②不確実性・不安の増大
・投資家による利益最大化圧力により、労働者福祉のための企業の「無駄」な支出が抑制され、従業員にリスク転嫁。
・新自由主義のスローガンである、個人の選択肢の自由の拡大は、情報の非対称性が大きい状況では、ありがた迷惑。
③知的能力資源の配分への影響
・各世代のもっとも優秀な人材が金融業にながれ、メディアもそれに流される。
⑤信用と人間関係の歪み
・信頼の浸食が進むと、金融取引において、情報の非対称性を利用して違法にならない範囲で債務者の無知をいいことに搾取することが当たり前に。
3 金融化は普遍的・必然的か
①金融の偏重的膨張
・世界の実態経済が膨張する以上、信用・保険の需要も成長するので金融業が支配的になるのは当たり前という説があるが、貧困な国から富裕国の消費のための資本の国際移転という優位性を与えている。
・金融化は、社会における富の配分、先天的能力や社会的維新の分配によって権力を持つようになった特定の利益集団が自己利益のために作った制度となってしまっている。
・会社における権力の配分、付加価値の分配を規制する法体系および組織・監修は「自然」の範疇ではなく「作為」の範疇に属する。グローバル化時代でも会社法、年金法、銀行法、記入商品取引法などの改正によって制度を変えることは可能。
②市場の効率性仮説
・自己利益最大化を目指す合理的な人々が売買する物の価格は、市場が十分に広くかつ流動的ならばだいたいファンダメンタルズを反映するはず。バブルがあっても自動制御装置が働き是正されるとする説だが、現実には是正されていない。
・金融システムの故障を認め、十分に改善の余地があるとしながら、それでも資本の再配分にあたり、資本市場よりいいメカニズムはあり得ないというのが、普通の防衛戦術。

感想 実物経済と乖離して膨張した「金融」が、バブルを創り出し、巨額の泡(債務)を実体経済と国家財政に押しつけ、次の新たなバブルのネタを創り出す。EU危機がよくわかる。

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